17
『だからさ〜迂回して道探そうよ』
ロッククライミングをするヴィルに話しかけた。
「時間が惜しい」
ヴィルはテンポ良く上っていく。
『けどこれじゃーさー』
あぎはまだ出血していたヴィルの腹部をつついた。
「っっ!」
ヴィルの筋肉がこわばる。
「てめぇ、痛い目に遭わせてやる」
ヴィルはそういうとあぎの尻尾を引っ張って腰のナイフで岩肌に留めつけた。
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
あぎの叫び声が森中に響いた。
ヴィルはしっかり止まっているか確認すると壁を蹴った。
『あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ』
あぎはバンジージャンプのロープのようにのびていった。そして、叫び声が頂点まで達すると今度は、ヴィルを大砲のように上空にはじき飛ばした。
『こんなことすると、ニュートンに笑われる〜〜』
18
深駆は痣だらけのルカを右肩に傷だらけの咲を左肩に担いでヴィルとはぐれた地点に急いだ。客観的に見てとても美味しい状況といえる。
・・・ぁぁぁあああああぁぁぁぁ・・・・・・・
「何か叫び声がきこえなかった?」
「判りません」
「聞こえなかったですー」
「そう」
深駆は軽く頷くと歩き出した。
・・・だだだだだだだだだぁぁぁぁ・・・・・・・
「やっぱり聞こえた。」
「そうですね」
「これはあぎの声ですー!」
『ぁぁぁああああぁぁぁああああああ』
べちゃ
いやな音がして深駆の顔に何かが落ちた。
咲とルカはけが人とは思えない速さで深駆から離れた。
べちゃべちゃべちゃべちゃ
得体の知れない何かは深駆の全身にかかった。
「これなんだろう。」
「「さあ」」
ルカと咲は同時に答えた。
ぁぁぁぁぁあああああ
深駆が振り返るまもなく黒っぽい何かが深駆に直撃した。
「いってー」
「ヴィルさん。どうしたんですか」
ルカは急いでヴィルに近寄った。
「僕の方がまずい状況なんスけど」
深駆のつぶやきは虚しく空に消えた。
四人は火を焚くと周りに座り込んだ。
深駆は一通り全員のけがの治療をした。
「お前大丈夫か?」
深駆は毛布にくるまって服を火で乾かしていた。
「まあ、何とか」
咲は粉々になったあぎをボール状にして捏ねている。
「投げ出されたと思ったらあぎがちぎれてしまって着地に失敗した」
「あぎにそんな仕打ちをするなんて非道すぎです〜」
咲はボール状のあぎを火に近づけて暖めながら補記伸ばしていく。
『ぁぁぁああああああたーー!!』
突然叫び声がした。
「ああ、あぎ、大丈夫ですかー?」
『あんちゃん!世の中にはやっていいことと悪いことが〜〜』
ヴィルはあぎの頭を引っ張ると炎の上で燻った。
『あちちちちち』
「ヴィンちゃんさん。ひどいですー」
「まあ、とりあえず全員無事と言うことですね」
ルカがまとめた。
「これから、どうすればよいのでしょう」
「実はー見てくださいー」
咲はルカのナイフを素早く引き抜くとあぎの尻尾を切り離した。
『うおー!』
妙に冷静な一同を前に深駆は寒気を感じた。
咲は切り離した尻尾を再び二つに切る。
そして、お互いを少し離れた場所に置いた。
二つのかけらはお互いに引き寄せあって震えた。
「あぎってのはー仲間の位置がお互いに判るのです」
「ふーん」
深駆は素直に感心した。
「そして・・・」
咲はマフラーからあぎの切れ端を取り出した。
「ローザにはこれを」
咲はにっこりと微笑む。
「何時やったのですか?」
「ロリロリぬーちゃんがローザと一緒にねてるとき」
「咲殿。それは誤解です。ここは一階です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一同の沈黙は深駆のガラスのハートを粉々にした。
「それで、『何とか回路』を抜ける方法は?」
ルカが咲に尋ねた。
咲は肩をすくめる。
「それに関してはこれを」
ヴィルがポータブルラジオのようなものを取り出した。
「俺が戦った雑魚キャラ軍団・・・」
『戦ったのは・・・』
あぎが言うやいなやヴィルはあぎを炎の上に引っ張ろうとした。
『もう、しません』
ヴィルはあぎに一瞥くれると再び話し始めた。
「雑魚キャラ軍団は全員これをつけてた。あいつらが持っていたものの中で用途不明だったのはこれだけだ」
咲はそれを受け取るとマフラーからドライバを取り出して分解した。
「これは通信機ではありませんねぇ。お母様なら一発でお分かりになるんですがねぇ」
咲は素早く元に戻す。
「まあ、どうやらそれがキーのようですね。明日からの目処はつきましたね。まさかとは思いますが、ヴィル。それ、ちゃんと四つもって来たでしょうね」
「・・・・・・・・・・・」
ヴィルは背伸びをすると火に薪をくべた。
「一つしか持ってきていないなんて言う事はありませんよねぇ」
「一つだけだ」
流石にヴィルは冷たい視線でへこむことはなかったが、咲がぽつりと「無能」と言ったのを聞いて心の中でひとしきり泣いた。
四人はあぎを使ってがけの下に来ると雑魚キャラ軍団の死体を探した。しかし、すでに撤収した後のようで血痕だけしか見つからなかった。
「一つでも大丈夫かも」
深駆はとりあえず言ってみた。
天使が通っていった。
咲が突然銃を抜いた。
そして、人差し指を唇の前に置いて三人に示した。 少し向こうの岩陰で何かが動いていた。
「動くな」
ヴィルが後ろから首筋に剣をあてた。
咲はそいつの装備をはぐ。
「こっ殺さないで」
「貴方は?」
ルカは言った。
「は?」
黒衣をまとった男は間抜けな返事をした。
「貴方は何故こんな所に?」
「わっ私はは事後処理第二班のキタムラです。昼間の戦闘の後かたづけに」
「あった。ありましたー」
咲は装備の中からさっきの機械を取り出す。
「これは?」
ルカは再び尋ねた。
「あー」
男は右上の見た。人間が嘘をつくときの特徴の一つである。
ルカは思いっきり男の腹部を殴った。
深駆は思わず目を瞑る。
あぎは深駆の陰に隠れた。
「ねーさん。こわっっっ」咲はつぶやいた。
「いっ言います。ごふっ。これは回路移動装置、通称・・・」
「通称は言わなくていい」ルカは遮った。
「はっはい。この通称『北風の中、家を自分で建てたりするお父さんの娘の名前は蛍』。略称『ほたる〜』は回路間を移動したり、回路から脱出したりするのに使います。空間を歪めたり膨らませたりする、『みなひめ』と対になっていて、空間を裂いたり、つなげたりする器具です」
キタムラはいやに嬉々として答えた。
「長い説明ぜりふ、ありがとう」ルカは微笑んで言った。
そして、腹を思いっきり殴った。
「僕には負けますけどねー」
深駆は「自覚してたのか?」とつっこみたかったが、例によって我慢した。「誤解」の一件が尾を引いている。
「そして、これは何人移動させられるの?」
「一人です」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴィルは剣を納めると月を眺めた。
「綺麗ですねえ」
つられて見上げたキタムラが言った。
「ほんとに一人だけなのか?」ヴィルは言った。
「はい」何故かうれしそうに答えるキタムラだった。
「困った」
深駆はとりあえず言ってみた。ルカが睨んだ。
「どうすりゃいいんだろう」
深駆は再び発言した。
キタムラは後ろ手に縛って放置してあった。そのキタムラと何か話し込んでいる咲は時々笑っている。ヴィルは水を探しに行ったまま帰ってこなかった。あぎもヴィルについていったままだ。
「けど、事後処理班って事はそれなりに組織があるって事でしょう?賢者ってそういうものなの?」
深駆はルカに話しかけた。
「私はよくわかりませんが、賢者を信奉する秘密結社があってその影響力は大国一国に匹敵するとか」
「ふーん」
ヴィルが音もなく帰ってきた。
革袋に入れた水を深駆に渡す。
「二里ほど行ったところに石清水が」
ヴィルは誰にともなくつぶやいた。
「ああ!!」
深駆は大声を出した。
「どうしたのですか?」
ルカが尋ねる。
深駆はそれを無視してキタムラの胸ぐらを掴んだ。
「班って言うからには仲間が来ているだろう」
「いっいいえ。私一人です」
「なんで!一人なら、班なんて言わないだろ。じゃあ、第一班は何人なんだよ」
「一人です。事後処理部部長が一人です。日頃動かない部署なもので」
「そうか・・・」
深駆は肩を落とした。
「ところで、みなさん何悩んでいるのですか?」
「四人で回路を出たいのに装置が二つしかない。」
「それでしたら、私が荷物を運ぶのに使っています。大型回路移動装置・通称・・・」
「「「言わなくていい」」」
ルカと、深駆とヴィルが同時に言った。
「はい。通称『東方見聞録の別名は世界の記述、マルコ・ポーロの故郷ヴェネチアではマルコ・ポーロより有名なマルコがいる』、略称『マル・ポロ』があります。それを使われれば?」
「なにそれ」咲は言った。
キタムラが胸につけていたボタンを押すと闇の中から巨大な卵が現れた。
「これです」
「これで、直接賢者の所へいけるか?」
ヴィルは尋ねた。
「ええ」キタムラはやはり嬉しそうに答えた。
「一件落着だな」ヴィルはルカを見た。
ルカはヴィルを睨んだ。