7


「ふ〜ん、弱いじゃないのあんた」
ほんの五分足らずでめった打ちにしたあぎを振り子のように振って遊んでいる。あぎは当然の如く気絶している。
「あたしの軍隊倒したからちょっとは楽しめると思ったんだけどね〜。期待外れもいいところね」
今度は振り回している。
 ヴィルはさっきから目を閉じていた。蛇笏の話は全く聞こうとしていない。聞くに値しないものだと思っているからだ。
「ねぇ〜今度はあんたがあたしのお相手よ」
嫌でも耳に入ってくる蛇笏の声にかなり嫌そうな顔をしたヴィルは目を開けた。
「よりによってこんなやつの相手をしないといけないなんて。あのチビの考えることは予想も出来ねえ」
独りごちて蛇笏が言ったことをまた無視した。
 刹那、チビ呼ばわりしているローザが他の面々にも渡した水晶が光りだし、
『むぅ〜、ローザはチビじゃないー。ヴィーちゃん、いい加減にしないと怒るよ』
一方的に通信が入ってきて、さらにローザは続ける。
『ヴィーちゃん口悪すぎ。そんなんだから女性にもてないんだよー。それでもいいのー?』
間延びした幼い声。それをヴィルは聞き流していた。
「おい、そこの変態」
水晶をほっぽり出すと、蛇笏に話し掛けた。
「な〜に?戦う気になった?」
「あぎを渡せ」
「へぇ〜、あんた思ったより仲間想いじゃないの。そういう性格も好きよ〜」
「気味悪い事言っている暇があったら早く渡せ」
「いいわよ。その代わりあたしと戦うのならネ」
「どうやらあんたとの戦闘は避けては通れないってことか。……ならば受けて立つ。まずはあぎを返せ」
『せーかいー!ヴィーちゃんはへびりんと戦わないといけないよ』
放ったはずの水晶がいつの間にか手もとに帰っていてまた一方的に通信が入ってきた。
「どうやらそのようだな」
極力ローザの言葉を無視しながら蛇笏に言う。
「それじゃ、はい。交換条件飲むわ」
あぎを放った。
 放られたあぎは綺麗な放物線を描いてヴィルの足元に虚しい音をたてて落ちる。まだ失神している。
 そんなあぎを一瞥すると、ヴィルはワークパンツのポケットから咲に飲ませた薬を取り出し、飲ませた。
『…………、まず〜!』
あぎ覚醒完了。さっきまで失神していたのが嘘のようだった。
『あんちゃん、俺に何飲ませたー!』
「ただの薬。咲にも飲ませたやつだ。問題はない」
『問題とかそういう事じゃない!これマズイ!』
「うるさい」
そう言うと、何度も何度も踏みつけた。それにより、あぎは再び伸びたが、今度はすぐに覚醒した。
 さっきから無視されっぱなしの蛇笏が怒りを露わにして変態らしく腰をくねくねさせながら、
「あたしを無視しないでよぉ。さっさとやりましょうよ〜」
今までで最も気味の悪い声を出した。
 それを聞いたあぎとヴィルに嘔吐感がこみ上げてきた。「俺、こんなやつとやりたくない」
『俺も二度とやりたくない』
「だが、仕方がない。お前の仇も取ってやる」
『まだ死んでねえよ』
ヴィルは無視して刀を抜いた。
「やっとやる気になったみたいね。本気でかかってらっしゃ〜い」

 お互い中段で構え間合いを取っていた。どちらが先に仕掛けてもおかしくない状況だ。だが、お互いの動きを監察しあっている。
 カン、とあぎが石を蹴った途端、二人は同時に動き出した。
 二つの刀身がぶつかり合い、火花が散った。それからすぐさま下がり再び間合いを取り、次の瞬間、
「ハッ!」
ヴィルは鋭い声とともに右手一本で銅を凪いだ。それを蛇笏はバックステップで交わすと、両手でヴィルから見て左から右へ袈裟懸けをした。
 今度はヴィルがバックステップで交わした。それからすぐさま蛇笏の右肩に振り下ろした。
 蛇笏はそれを交わさずに大刀で払った。まるで自分の力量をヴィルに見せ付けるかのように鮮やかに。
「ちっ、どうやら一筋縄じゃいかないようだな」
「ま〜ね〜。でも、これからが本気よ」
語尾にハートマークが付きそうな喋り方。ヴィルは心底嫌な顔をして、来るであろう蛇笏の攻撃を防ごうとした。
 その予想は外れ、蛇笏は十分な間合いを取っただけだった。
「俺が動いたら動く、か。こっちの動きを利用しようってわけか」
誰にも聞こえないように呟くと、何を考えているのか再び自分から、
「ハッ!」
さっきと同じ掛け声をして今度は剣を逆手に持って連続で攻撃を仕掛けた。
 蛇笏はその攻撃を全て受け流した。
「いいわね〜、この感じ。そうやって暴れるの見るって好きよ〜」
相変わらず気味の悪い喋り方をする。あぎが後ろの方で吐いた。
『おえ〜、気持ち悪〜……。あんちゃんさっさとやっつけろよ……』
恨みがましいことを言う。元はと言えばこいつが倒さなかったのが悪いのではないだろうか。

 ヴィルの連続攻撃を受け流したあと、蛇笏が攻撃態勢に入り、連続攻撃。
 その攻撃パターンはヴィルがさっきやったものと全く同じ。相手を見下しているのは明らかだ。
 その攻撃を回避していたが、最後の左下から右上への攻撃が左の頬を掠めた。
 血が流れ、唇に紅い液体がつく。それを袖口で拭い、間合いを取って一呼吸置くと、今度は左に走り、そこから急な方向転換をして斬りにかかった。
「むだむだ〜。そんな小細工であたしは倒せないわよぉ」
調子を狂わせる奇声。
 あぎはまだ吐いている。
『うえ〜、あのローザって娘は何考えてこんなのを手下にしたんだ。趣味悪〜』
吐きながらでも言いたいことを言っている。そんなところがあぎらしかった。

 戦っている二人は現在鍔迫り合いの状態。こうなった場合は背の高いヴィルが有利だと思われる。だが、ヴィルは押されていた。力で対抗してもまるでダメだった。
「こんな格好してるけど、あたしは男なんだからね。女みたいな貧弱なのと一緒にしないでくれる?」
「あんたの性別なんかに興味はねえ。とにかく避けられない戦いだからあんたを倒すまでだ。そうすれば、あのチビの遊びも終わりだ」
この後に及んでまだチビ呼ばわり。本当に学習能力というものを持っていない様子だ。だが、戦いに関してはさっきとは違うパターンで攻撃を仕掛けたりしているのだから、少しはあるようだ。
 鍔迫り合いから離れると、ヴィルは逆銅を凪いだ。それをからかうように弾き返した。しかし両手で。
 その衝撃でヴィルの剣は手から離れ、蛇笏はにやりと笑い、鋭い突きを繰り出す。交わしきれず、今度も左の頬を掠めた。
 蛇笏は剣を構える前にヴィルの血で汚れた刃を舐めた。
「まずい血ねぇ。いい男なんだからもっとうまい血をしてるかと思ってのは見当違いだったみたい。ま、楽しませてね」
 それから剣の無いヴィルに対して容赦の無い蛇笏の攻撃。ヴィルは避けるだけで精一杯だった。体術を一応は身に付けているものの、反撃する隙がない。一方的にやられている。
 それを見かねたあぎは、ヴィルの剣のもとに行き、それから剣を咥えて、
『あんちゃん!投げるから受け取れよー!』
無理なことを言った。
 だが、藁にも縋りたい思いのヴィルはその無茶なことを聞き入れ叫んだ。
「さっさと投げろ!」
それを聞いたあぎは全力で剣を放った。
 あぎの放った剣は明々後日の方向に行き、尚取りにいくのが困難な場所に落ちた。
それもそのはず、蛇笏がいる位置から数メートル後ろに落ちたからだ。
「バカが、あとで覚えとけ」
こんな状況でも悪態付いて、すっと身構えた。
「あはははははははは、頼みの綱のあごが使い物にならなくって残念ねぇ。あたしにとってそんなことはどうでもいいんだけどね。でも、戦ってくれるなら力いっぱいされた……」
蛇笏が言い終える前にヴィルは蛇笏の左側頭部目掛けて蹴りをした。蛇笏はいきなりだったために、防ぐことも交わすことも出来ず、長くてつやつやした黒髪を靡かせて右に倒れた。初めてまともにダメージを与えることができた。
「ざまあみろ毎度毎度変態の言うことに付き合ってられるか」
倒れている隙に自分の剣を拾い、そして構える。
「今の一撃効いたわ〜。なかなか面白くなってきたじゃない」
ゆっくりと体を起こし、倒れて乱れた髪に手櫛を入れながらニヤニヤ笑った。
「気味の悪い笑い方すんじゃねえ。こっちは急いでるんだ」
再び一気に距離を詰め、右から左へ袈裟斬りを仕掛けた。それを嬉しそうに受け流そうとする蛇笏。が、上にあった筈のヴィルの剣がいつの間にか左横に移動し、脇腹を狙って剣を振った。
 それほど威力がある攻撃ではなかったように思えたが、蛇笏はバックステップで交わす。すると、再び迫ってくるヴィルを視界にとらえた。今度はどう攻撃がくるのかわからない。いつもは前触れのようなものがあるのに、今回は無いのだ。
「ハッ!」
いつもの短い掛け声とともに、今度は右手一本で逆袈裟を斬りあげた。
 その攻撃はかわされたが、それでも返し刃で袈裟斬りを両手で繰り出した。
 慌てた蛇笏はそれを刃の根元で防いだ。
「ふーん、なかなかやるようになったじゃない?そうこなくっちゃね。せっかくいい男と戦えるんだから」
「お前は黙ることを知らないのか?知らないのなら一生黙らせてやる」
「まぁ、怖い。それって悪役の言う台詞よ?」
「そんなこと関係ない。とっととくたばれ」
距離を詰めると袈裟斬りを繰り出そうとした。
「何度も同じ攻撃は通用しなくって?」
左に動き袈裟斬りを交わすと、胴を繰り出した。それを交わせないとヴィルは思い目を瞑った。その顔にはどことなく名残惜しそうな感じが窺えた。

 だがその刹那、あぎが蛇笏に体当たりをした。
『あんちゃん、無事か?』
「あぁ、助かった」
『これで借りは返したぜよ』
「まだ残ってる。復活させたやったのは今のでなしにしたとしても、剣渡すの失敗した分が……」
『俺も戦うー』
「残ってる」と言おうとした時にあぎが割って入り、
『そしたら全部チャラだろ?』
と言い出した。少し考え、そして、
「働きによる。増えるか減るか変わらないかのどれかだ」
 蛇笏はあぎに体当たりされた右腕を押さえていた。
「あんた、よくも邪魔してくれたわね?あんたも一緒にその男と送ってやるわ。とっても苦しむようにじわじわとね」
あぎは舌打ちをしながら、
『あんちゃん、俺伸び縮み自在だから武器になるぜよ』
「わかった。遠慮なく使わせてもらう」
剣を右手一本に持ち替え、左手にはあぎを持った。その感触は最悪だったがこの仕方がないと思い無視することにした。
「さぁて、遠慮なく行くぜ。覚悟しろ」
『覚悟しろー、覚悟しろー』
あぎを持ったヴィルとヴィルに持たれているあぎ。両者は殺気立てて蛇笏を見据えた。
 蛇笏の方は、さっきまでの不気味な笑いをしながらも、眼は笑っておらず、絶対に倒すと言う気持ちで心が支配されていた。

 最初と同じ。両者とも全く攻撃を繰り出さない。動きの探り合いがまた始まった。
 だが、よく見るとお互いの距離は少しずつ縮まってきている。要するに、そろそろ攻撃が始まるのだ。
「行くわよ〜」
蛇笏は一気に詰め寄り、左から右へ逆袈裟に斬り上げた。その刃先はヴィルの心臓に向けられておらず、足から腕を切り裂こうとしているだけ。
 ヴィルは一度バックステップで下がり、あぎを鞭のように使い蛇笏に一撃見舞った。
 ところが、その威力は思ったよりなかった。蛇笏が少々怯んだだけだったからだ。
 故に、あぎの鞭は猫だまし系統の武器だった。それも大した効果の無い、その上使いづらいものだった。
 ヴィルはあぎを一瞥すると、
「お前、こんなんで借りをチャラにしようとしても無駄だ。ぜんっぜん威力が無い」
『あんちゃん、もっと上手く使えば威力も出てくるで』
「振るスピードを上げるのか?」
『いや、違う。要領よくすればいいってこと』
「抽象的過ぎる」
こんな時でも文句を言う。だが、そのときは大体攻撃を仕掛けられることは無い。むしろ、蛇笏も会話を聞いて楽しんでいる。
「そこ!あたしを無視して漫才しないでよ!せっかくいい男と戦っているんだから、もう」
またもや変態らしく腰をくねらせながら言った。
『あんちゃん、あの変態とっとと倒せや』
「うるさい。言われなくても倒す。それでなくてもあの喋り方を聞かなくて済むようになる」
『それって……?』
「こちらの負けを意味する。だが、それだけは避けたい。師匠がくれた球を取り返していない。それに、あいつらに何も言わずに死ねるわけ無いだろ?」
言ったすぐ後にかなり臭いこと言ったなと思い、鼻で笑った。あぎもそれに気付き、同じように鼻で笑う。
 そのすぐ後、蛇笏の剣が襲い掛かってきた。慌てて後ろに下がりやり過ごす。
 しかし、蛇笏の勢いは止まること無かった。伊達に四天王を名乗っている輩ではない。かなりのスタミナとスピードがある。その上、破壊力も半端ではない。もし刃に体が当たったのなら、確実のその部分は切り取られるだろう。
「はいはいはいはいはいはいはいはいはいはい。まだまだまだ楽しませてよ〜」
そう言いながら連続で斬りかかってくる。
 防ぐことも交わすことも紙一重。必死で当たらないようにしているが、このままだといずれ当たってしまう。
 最悪の場合あぎだけでも逃がそうとヴィルは思った。だから、
「あぎ、お前はしばらくあの岩の後ろに隠れとけ。ここは俺が何とかする」
『あんちゃん、俺は大丈夫で。俺も戦う』
「まともに使えない武器だったら無い方がいい。足手纏いだ!」
言い切ってあぎを岩の後ろ目掛けて放り投げた。
 飛ばされながらも不平、不満を言うあぎ。こういった場面、前にもあったなと思うヴィルだったが、蛇笏の攻撃が間髪いれずに迫ってくるため、すぐに集中力をかき集め、戦闘に集中した。

 さっきから止まることも威力が弱まることも無い蛇笏の連続攻撃。いまだにヴィルは反撃の糸口を見つけ出せていなかった。交わし、防ぐだけで精一杯の状態が続いている。
「抵抗したっていいのよ?苦しみが長く続くようにね」
 相手であるヴィルに抵抗されるのを快楽だと思っている蛇笏はこういった台詞をさっきから何度も言っている。いい加減聞き飽きてきた。
 いっそのこと一撃でこの変態をやったらどんなに楽かと思うと、自分の剣術の未熟さに痛感した。
 こんなことだったら、師匠が生きているときにちゃんとしておくべきだった。あの時、ちゃんと稽古していればこんなことにはならなかっただろうに。
 誰も傷つくことはなかった。
 あのチビの言ったことが事実であることは知っていたが、ここまで自分が無力だとは思わなかった。
 そう思うとやりきれなくなってきた。
 ここでこの変態に殺されるのは避けたいが、現時点ではどうしようもない。
「ほらほら、物思いに耽ってたらあんたの体が切れていくよ〜。それとも、もう降参するの?」
「くそっ!いい加減にしろ」
面を交わすと、胴を凪いだ。
 蛇笏はその胴を見切り、峰でヴィルの左腕を打ち、それから同じように峰で右肩を打った。
「ぐわっ……」
苦痛の声を上げるヴィル。峰打ちを食らったのだからかなり痛いだろう。それから右足に蹴りを食らい、地面に左膝をついて蹲った。
「やっぱりいい男が傷つくのって見てて最高よね。あんたもそう思うでしょ?」
岩陰にいるあぎに言う。あぎの答えは、
『俺はそんなのに興味ないしー』
「まぁ、憎まれ口叩いちゃって。この男が終わったら次はあなたの番だからね?」
 さっきと変わらぬ体勢のヴィルのほうを見ると、蛇笏はそちらに近付き、ヴィルの腹を蹴飛ばした。
「がはっ」
後ろにのけぞるのと同時に、一瞬呼吸が止まった。
 倒れたヴィルを見下ろすと今度は頭を蹴り、腕を踏みつけるなどを、かなりいたぶった。
「あははは、楽しいわね、やっぱり。これだから言い男との戦闘は止められないのよ」
首根っこを掴むと、放り投げた。なんて馬鹿力だ。

 ヴィルは自分の無力さに打ちひしがれ、絶望感さえ抱き始めていた。だが、放り投げられて目を閉じた時に懐かしい師匠の声が聞こえたような気がした。
「いいか、ヴィル。どんなに強い相手でも必ず弱点はある。それを見抜くことが出来れば、その相手に勝つことが出来る。……、なに?どこが弱点か見抜けないときは、だと?それならヒントをやる。強大な力を持つものの弱点はその強大な力にある。わかるか?相手の動きをよく監察しろ。そうすればきっと見えてくるはずだ。その弱点というものが」
 その声が終わると同時に、ヴィルの体は地面についた。
「師匠……」
 ボソッと呟くと、今までの絶望感が吹き飛んだ。
「ははは、あんた弱いわ。ローザから球を取り返すなんて絶対に無理ね。それに、そんなんでよく剣士なんかやってられるわね。でも大丈夫。それも今日までだから」
地に伏したままその言葉を聞いていた。
 自然と怒りは湧いてこなかった。
 湧いてきたのは少しの希望だった。師匠の言葉が頭をよぎり、この変態にも弱点があるとわかったからだ。
「確かに俺は今の時点では弱い。だが、この弱い俺に負けたらお前はもっと弱いと言うことになるだろう?俺は負けない。絶対にな」
静かな落ち着いた口調とは正反対の勢いで立ち上がると剣を中段より少し上に構えた。
「へぇ、なかなか言ってくれるじゃないの?それでこそ、ローザがあたしにあんたとやらせてくれた意味があるってことね」
 構えた。
 二人が構えると同時に、音が聞こえなくなった。まるでこれから始まる二人の戦いが聖戦であるかのように周りは静まり返った。


 8


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふ。なででしょうね〜。笑いが止まりませんよ〜」
 咲は木の枝から枝へ飛び移った。
「きゃはははははっはははっはっははははははっは」 石鼎も同じ速度で移動する。
 咲は木の陰から飛び出しながら石鼎を撃った。
 しかし、木に阻まれて本体に当てることはできない。
 次の枝に着地するとそこには緑色の感震計付きピンク爆弾がセットされていた。咲はその枝に着地せずに地面に降りた。
 セオリーから外れてしまう。
 この様な入り組んだ地形においてはどちらが上にいるかで勝負は決まる。
「きゃはは、ひっかかったー引っかかったー」
 石鼎は笑いながら木の上をすごいスピードで移動した。
「こうなったら、こっちにも考えがありますよー」
 咲はまだ弾が入った弾倉を捨てると新しいものを装填した。
 木の幹を蹴り再び高度を保つ。
 石鼎の笑い声から場所を割り出す。
 そして、木の幹を撃った。
 石鼎は何が起こったか解らなかった。
 地面に叩きつけられる衝撃だけが感じられた。
 急いで自我を取り戻すと木に隠れながら距離を取った。
「ど〜〜だ。鉄板さえも突き通す貫通弾だぁ。ですっ」
 咲の高笑いが聞こえた。
 左の肩に弾が掠っていた。
「ソーユー事ならこっちもとっておきの使うからね。散弾式対人地雷『痛いぞ六世君』だ」
 石鼎は大声で張り合った。
「地雷のはばらしちゃ駄目ですー」
 咲は独り言を言った。
 咲は再び石鼎の声がした木を撃った。
 陰が幹から飛び出す。
 ピンクの手投げ弾が飛んできた。再び打ち落とす。
 しかし、今度爆発した瞬間破片が無数に飛び散った。
 咲の耳を掠った。
「くっそ、やったな、です」
 破片式では迂闊に打てない。
 やはり、ほかの手段を考えるべきか、と咲は思った。
 マフラーを探るとピアノ線が出てきた。
 咲にはすばらしい計画が浮かんだ。
「ふふふふふふふふふ。ピンクは滅びるのです」

















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